休業損害は、相手の自賠責保険や加害者本人、任意保険会社から支払われる損害賠償金の一種で、交通事故に遭ったら休業損害が発生するケースが多いです。
交通事故の休業損害は、会社員だけでなく、自営業者やフリーランス、主婦(夫)などであっても請求が可能です。
加害者の保険会社が提示してきた休業損害が適正かどうかを判断するためには、休業損害の正しい計算方法を理解しておくことが大切です。
今回は、休業損害の計算方法について、福岡の弁護士が解説いたします。
休業損害とは事故によって得られなかった収入のこと
休業損害とは、交通事故による受傷が原因で働けなかったため、得られなかった収入のことです。
たとえば、会社員や自営業者などの方が交通事故に遭って入院すると、その期間は収入を得ることができません。そこで、「失われた収入」を損害として、加害者に請求することができるのです。
休業損害を請求できるのは基本的に有職者ですが、主婦や主夫などの家事労働者にも休業損害が認められています。
休業損害の計算方法について解説
1日当たりの基礎収入とは?収入がない場合はどうなる?
1日あたりの基礎収入×休業日数
1日あたりの基礎収入とは、交通事故前に得ていた収入の1日分のことです。
ただし、実際に会社から給与を得ている会社員と、労働の対価となる収入を得ていない主婦(夫)などでは、1日分の収入に対する考え方や休業日数の考え方が異なります。
ここでは、職業や状況別に、休業損害の計算方法について解説していきます。
会社員(給与所得者)の場合
事故前3か月の収入÷事故前3か月間の実労働日数×休業日数
会社員(給与所得者)の給与が減額された場合、休業・遅刻・早退等による給与の減額分を休業損害として請求することができます。
有給休暇を使用して通院等を行った場合においても、休業損害として請求することができます。有給休暇を使用した場合、実際には給与の減額はないのですが、本来別の使途に使用できた有給休暇が減った分を休業損害として補うこととなるからです。
請求する際には、勤務先から休業損害証明書や事故前年の源泉徴収票を提出してもらい、事故前3ヶ月分の収入を平均して求めることが多いです。
また、保険会社との交渉では、実労働日数ではなく、90日(1か月あたり30日×3か月)で割り、休業損害を算定する考え方もあります。
ただし、長期間の入院に伴う休業によって、賞与が減額された場合などは、別途賞与減額証明書を勤務先から作成してもらい、請求することもあります。
個人事業主・自営業者の場合(事業所得者)
事故前年の所得額÷365日×休業日数
事故前年の所得額は、確定申告における申告所得が原則です。
個人事業主や自営業者といった事業所得者の場合は、事故前年の年収を365日で日割りして日額を出し、そこに休業日数をかけて計算します。
もし、前年の確定申告が赤字である場合であっても、「固定経費」分を基礎収入としたり、「業種別や年齢別の平均賃金」を使ったりして基礎収入を計算することが一般的です。
経費に関しても事務所家賃や従業員の給料といった、事業の存続に必要な固定費に関しては損害として認められる裁判例もあります。
また、仮に過少申告や無申告の場合であっても、実際により多くの収入があることや何らかの収入があることが立証されれば、実際の収入を基準として基礎収入を計算してもらえる可能性があります。
ただ、過少申告・無申告の場合、法律違反をして必要な納税義務を怠っているということですから、厳しい目で見られることにはなりますし、実際に収入があったことを立証することも簡単ではありません。
この他にも、事故当時開業準備中(収入が0円)であった場合や、事業拡大中で赤字であった場合など、将来の見込みの収入を考慮してもらえるケースもあります。
自身が仕事ができなくなってしまった分を外注して補ったり、代理で雇用した場合などは、その分の損害も別途請求できることがありますので、詳しくは当事務所までお気軽にお問い合わせください。
主婦(夫)の場合
女性労働者の全年齢平均賃金(賃金センサス)÷365日×休業日数
専業主婦の場合には、実際の収入がないため「賃金センサス」の「女性労働者の全年齢平均賃金」を基準として計算します。
賃金センサスとは、政府が毎年行っている「賃金構造基本統計調査」の結果に基づき、労働者の性別や年齢、学歴等別に、その平均収入をまとめた資料のことをいいます。
令和3年度の全年齢の女性の平均賃金は、年収385万9400円であり、日額にすると1万円程度の計算になります。
なお、主夫の場合も同様に「女性の平均賃金」で計算します。これは、男女の平均賃金に格差があり、全年齢の男性の平均賃金を使うと、主夫が主婦より基礎収入が高額になり、不公平となることを防ぐためです。
また、パートなどで仕事をしている兼業主婦の場合は、実際に収入があるので、これをどのように取扱うかが問題です。
パート収入を基本とすると、多くの場合、専業主婦より金額が小さくなってしまい、不公平です。
そこで、兼業主婦の場合、女性労働者の全年齢平均賃金と実際の収入を比較して、高い方の金額を基準とします。つまり、令和3年度の例によると、収入が年収385万9400円を超える場合にのみ、実収入を基準とするということです。
一般的な兼業主婦のケースでは、パート収入はそう多くはないので、全年齢の女性の平均賃金を基準とすることになるでしょう。
ここで、一人暮らしで家事労働を行っている場合に主婦(夫)の休業損害が認められるのか疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、通常、「労働」は他人のために行うものであり、自分のために行う家事は「労働」とはみなされません。
そこで、一人暮らしの場合は「主婦(夫)」とはみなされず、休業損害は認められません。
なお、主婦の場合、会社員のように勤務先に休業日数を証明してもらうことができないため、休業日数についても問題になりやすいです。入院日数については問題なく認められるものの、通院日数についてはすべて含めてもらえないこともありますし、自宅療養日数となると、さらに困難になります。
症状の程度からして療養を要することを、医証によってしっかり証明することが大切です。
会社役員の場合
会社役員の場合は、役員報酬の利益配当部分に関しては認められないケースが多いですが、労務提供部分の対価に関しては休業損害として認められることがあります。
これは、休業損害が休業による実質的な収入の減少への賠償と同視できるからです。
しかし、家賃収入や株取引などによって得ている不労所得に関しては、原則として休業損害とは認められません。
会社役員の方の休業損害は、争点となることが多いですので、お早目に弁護士へご相談されることをお勧めします。
高齢者の場合
事故以前から年金生活を行っており、労働対価としての収入がなく、働く可能性の低い高齢者の場合は休業損害を否定してくることが通常です。
ただし、高齢の主婦(夫)として請求を行う場合には、主婦(夫)と同じように家事従事者の休業損害を請求できます。
しかし、高齢になると若い人よりも労働能力が低下している可能性があるため、被害者である主婦(夫)が高齢である場合には、年齢別の女性の平均賃金を採用して、若い主婦よりも基礎収入を減額することがあります。
学生、アルバイトの場合
事故前3か月の収入÷事故前3か月間の実労働日数×休業日数
休業損害は、事故以前に収入があり、怪我によって就労できなくなったことが条件で認定されます。
したがって、被害者が仕事をしていない子供の場合には休業損害は認められません。
ただし、学生であってもアルバイトによる収入があった場合には、休業損害が請求できます。
会社員(給与所得者)と同じように、アルバイト先から休業損害証明書を記入してもらい、請求を行うことになります。
なお、アルバイトを始めたばかりで、事故前3か月の収入が証明できない場合などは、1か月あたりの収入÷30日で算定したり、シフト表や給与明細をもとに日額を算出したりすることもあります。
また、事故によって就職活動ができなくなってしまったり、内定が取消になった場合などは、内定先の給与や賃金センサスをもとに請求を行うこともあります。
無職者・失業者の場合
現実に収入がある人は、その収入額を証明して休業損害を請求することになりますが、収入がない人の場合はどうなるのでしょう。
無収入の人は交通事故を原因とした収入の減少がないとして、保険会社は原則として休業損害を否定してくることが通常です。
しかし、裁判例においては、失業していた場合においても、就職の内定が出ていた場合や就労の蓋然性が高かった場合には、就職内定先の給与額や賃金センサスを基準にした金額を請求が認められている例もあります。
基礎収入を検討するにあたっては、前職での収入や内定先の収入、平均賃金を参考にすることが一般的です。
自賠責保険基準では1日当たり6100円
自賠責基準によると、1日当たりの基礎収入は原則6100円となります(民法改正前の令和2年3月31日までに発生した交通事故については日額5700円)。
自賠責保険の基準は、あくまで国が定めた最低限の補償であり、実収入と比べると差額が生じることももちろんあります。
そのような場合には、相手の保険会社と示談前にしっかり交渉し、適正な金額を支払ってもらうことが大切です。
労災の休業補償と休業損害の関係とは?
交通事故に遭ったとき、「労災認定」を受けられるケースがあります。労災認定されると、労災保険から休業補償を受けられる可能性がありますが、休業補償と交通事故の「休業損害」にはどのような違いがあるのでしょうか。
労災の休業補償給付とは?
労災の休業補償とは、労災認定されたときに支給される「休業補償給付金」のことです。
交通事故が「労災」として認められたときに、休業補償給付を受けられる可能性があります。
労災(労働災害)とは、労働者が業務中や業務に起因して怪我をしたり病気になったりすることです。労災認定されると、労働者は「労災保険」から、病院での治療費を始めとしてさまざまな補償のための給付を受けられます。
休業補償も、そのような給付のうちの1つです。労災の休業補償を受けられる場合、労働者の基礎収入の8割相当の金額の給付を受けられます。
交通事故が労災として認められるのは、業務中や通勤退勤時に交通事故に遭った場合です。
たとえば、以下のようなケースで交通事故が労災認定される可能性があります。
- 営業車を運転していて交通事故に遭った場合
- 営業で外回りをしているときに車にはねられた場合
- 会社の許可を受けてマイカー通勤をしている途中で交通事故に遭った場合
労災保険に加入しているのは、会社などに勤務している労働者です。
株式会社だけではなく、その他の法人や個人事業者のもとで働いている場合にも労災保険に入っています。
これに対し、自営業者やフリーランスの人は労災保険に加入していないので、労災認定を受けることはできません。
労災の休業補償と自賠責の休業損害の違い
交通事故が労災認定されて、休業補償と休業損害の両方を受け取れる場合、その2つの関係はどのようなものとなるのでしょうか?
休業補償も休業損害も、どちらも被害者が交通事故に遭って働けなくなったことに対する補償です。
両方を受け取ると、1つの損害についての2重取りになってしまうので、両方受け取ることはできません。
休業損害を先に受け取ると休業補償は受け取れませんし、休業補償を先に受け取っていると、その分休業損害が減額されます。
ただ、労災の休業補償のうち、「休業特別支給金」は交通事故の休業損害と重ならないと考えられています。
労災の休業補償は、基礎収入の6割の休業補償給付と2割の休業特別支給金に分かれているのですが、2割の休業特別支給金については交通事故の休業損害とは別に受け取ることができます。
そこで、交通事故の休業損害と労災の休業補償を受け取る場合、実際の基礎収入の120%分の休業補償を受けられることになります。
また、労災の休業補償には「過失相殺」「重過失減額」が適用されないので、被害者に過失がある場合には労災認定を受けるメリットが大きくなってきます。
交通事故が労災に該当する場合には、できるだけ労災認定を受けて、労災の休業補償も受け取るべきです。
まとめ
休業損害を請求するときには、基礎収入の計算方法や休業日数の考え方について、保険会社とトラブルになりやすいものです。
特に自営業者や主婦などの場合、休業日数をどのように証明するかが問題となります。
入院の場合は休業せざるを得ない状況が明らかですので、問題になることはあまりありませんが、通院に関しては傷害の程度や治癒状況によっては休業の必要性が争点となることがあります。
このような場合には、治療状況や医師の診断内容をもとに休業の必要性を立証する必要があり、場合によっては医師に「〇〇日間、安静加療を要する」などと書かれた診断書を作成してもらうことも一つの方法でしょう。
また、当事務所では労災保険への請求サポートも行っておりますので、お一人で労災申請をするより弁護士がサポートする方が認定を受けやすくなります。
交通事故に遭われてお悩みの場合、是非とも一度、当事務所までご相談下さい。