
中心性脊髄損傷とは、頚髄の中心部(灰白質)が損傷されたことで発症する麻痺などの感覚障害を中心とした症状で、種々の合併症を有する場合もあります。
主に交通事故による外傷や、高所からの転落等の強い衝撃が原因となることが大半ですが、スポーツ選手などが発症することもあります。
中心性脊髄損傷の具体的な症状とは?
負傷の程度によって現れる症状も様々で、麻痺や痛みなどから、本人の意思とは関係なく痙攣が起きるなど様々な感覚障害が現れます。
脊髄は中心に近づくほど上肢の運動を司っているため、上肢の症状が顕著です。
中心性脊髄損傷は、骨の内部の損傷で骨そのものには異常がないため、むちうち症などに間違われることがありますが、一度負傷した個所はもとに戻らないとされています。
脊髄損傷による麻痺以外に次のような合併症が出ることがあります。
排尿障害、排便障害
排尿の働きを支配する神経が脊髄と脳を通っているため、脊髄の損傷により排尿障害が現れることがあります。
床ずれ
中心性脊髄損傷により、体の感覚がなくなったり、体を動かすことが困難になったりする場合に、体の同じ場所に圧力が長時間かかることで床ずれが生じることがあります。
呼吸障害
頚部の脊髄損傷による四肢麻痺や重度の対麻痺の場合、呼吸機能が悪くなることがあります。
中心性脊髄損傷で認められる後遺障害について

症状によって次の後遺障害に認定される可能性があり、認定された等級に応じて賠償金を請求することができます。
1級1号(4000万円、労働能力喪失率100%)
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
2級1号(3000万円、労働能力喪失率100%)
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
3級3号(2219万円、労働能力喪失率100%)
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
5級2号(1574万円、労働能力喪失率79%)
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
7級4号(1051万円、労働能力喪失率56%)
神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
9級10号(616万円、労働能力喪失率35%)
神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
12級13号(224万円、労働能力喪失率14%)
局部に頑固な神経症状を残すもの
中心性脊髄損傷は、交通事故等による外傷を原因とするケースが多く、後遺障害の認定対象となっていますが、診断名に中心性脊髄損傷の病名がついていたとしても後遺障害としての損害賠償を請求できるとは限りません。
中心性脊髄損傷での後遺障害の認定を受けるには、診断名が中心性脊髄損傷となっているだけでなく、他覚的な所見による立証が必要となります。
中心性脊髄損傷を立証するための各種検査

中心性脊髄損傷は骨に異常がないため、下記の立証(検査)を行うことになります。
MRIによる画像診断
MRIによって、骨の内部に脊髄負傷によって起きた出血(による浮腫など)がないかを調べます。
脊髄に映る白い影の存在を確認します。
レントゲンやCTは骨を検査するものなので、脊髄の異常は反映されません。
神経学的検査
神経学的検査を行い実際の症状を調べます。神経学的検査には様々なものがありますが、特に代表的なものは腱反射、筋萎縮テスト、徒手筋力テストとなります。
特に中心性脊髄損傷の場合には、治療の初期に腱反射テストを受けておく必要があります。
整合性の判断
MRIによる画像診断と神経学的検査による症状診断が揃ったところで、負傷箇所と症状の辻褄が合うかといったことや、交通事故との因果関係が認められるかといったところを吟味されます。
中心性脊髄損傷が疑われる場合には、早期にMRIによる画像診断および神経学的検査による異常がないかを確認し、その後の立証方針を立てる流れになります。
中心性脊髄損傷では、他の後遺障害と同じく症状があったとしても、十分な立証ができていない場合には、後遺障害は存在しないものとして扱われるため注意が必要です。
中心性脊髄損傷で獲得できる賠償について

逸失利益
中心性脊髄損傷においては、今後の就労が困難な程度の後遺障害が残ることがあります。
適切な賠償を獲得するためには、中心性脊髄損傷自体の立証とともに中心性脊髄損傷によってどの程度の労働能力が損なわれたかという点の立証が重要となります。
逸失利益の金額は、後遺障害の等級や年収、年齢によって個別的に計算を行いますが、数千万円から数億円になることもありますので、示談の前に専門家にご相談されることをお勧めします。

将来の介護費
中心性脊髄損傷による症状が重度の場合、今後の生活において親族又は専門家による介護が必要となることがあります。
今後の生活のために重要となる将来介護費用獲得のためには、介護の必要性及びその内容を具体的に立証していく必要があります。
また、保険会社からの賠償金の提示には、将来介護費が含まれていないこともありますので、将来介護費の請求の要否を検討することが必要です。
金額については、後遺障害の等級や介護の内容(誰が介護を行うか、その時間、内容)によって個別的に計算することになり、金額に大きな差が生じますので、示談の前に専門家にご相談をされることをお勧めします。

将来の雑費
症状が重度の場合、おむつ代、カテーテルの費用など、将来の介護費用に付随した費用負担が継続的に発生することがあります。
このような費用の負担についても、具体的な必要性や金額を立証することで、賠償を請求することができます。
まとめ
交通事故における脊髄損傷は症状が重篤ですし、中心性脊髄損傷は見落とされやすい疾病ですので、立証が難しく治療段階から検査の実施、立証資料の収集が重要となります。
一方で、医師から中心性脊髄損傷と診断されても、自賠責等で中心性脊髄損傷と認定されるかはハードルがあります(感覚では医師が中心性脊髄損傷と診断したうちの約3割程度は、自賠責保険では中心性脊髄損傷の立証がされていないと判断されています)。これは、医師は患者さんの症状や医師の経験などを総合的に判断して、「中心性脊髄損傷」の病名をつけることがありますが、自賠責保険ではMRI画像による「影」など、画像所見がないものは認めないことから相違が発生しています。
そのため、中心性脊髄損傷と診断された又はその疑いがある場合は、ぜひ一度専門の医師や弁護士に相談されることをお勧めします。
当事務所でも、中心性脊髄損傷についてのご相談を受け付けており、社内研修など日々医学的知識の研鑽に努めております。中心性脊髄損傷になってしまった方やそのご家族、他事務所で断られてしまった方などお困りの場合は、ぜひ一度、当事務所までお気軽にお問合せくださいませ。