「後遺障害」とは、後遺症によって将来の労働能力に支障をきたすなど、治療終了後に残存している症状(障害)のことを指します。
治療終了(病状固定)後も後遺障害が残る場合、後遺障害の審査対象となります。
後遺障害として認定されると、後遺障害部分の賠償金を請求することができるようになります。
後遺障害の審査対象となりうる症状は、上肢下肢が動かない四肢麻痺のような重篤なものから、むちうち症のように、骨折や靭帯の損傷等を伴わないものまで、140種類のもの項目があります。
後遺障害による賠償を受けられるか否かは、交通事故後の生活に大きな影響を与えかねません。また、認定を受けた後遺障害の等級によって、請求できる賠償金額には数千万円もの違いが生じます。
後遺障害の認定には医学的な立証が必要となりますが、症状があっても立証ができなければ、後遺障害は存在しないものとして扱われてしまいますので、豊富な経験と知識を有する交通事故・後遺障害専門の弁護士に相談されることをおすすめいたします。
後遺障害認定で認められる損害賠償
後遺障害として認定されると、「後遺障害慰謝料」「後遺障害逸失利益」が認められることになります。症状終了後も症状が永続することを前提に想定される将来的な損失への賠償として、認められた等級ごとに最大で3000万円の賠償金を請求できます。
後遺障害の審査は、書面による審査が原則であるため、書面や診断書の内容によっては、適切な等級での認定がなされず、請求できる賠償額に大きな差が生じることもあります。
後遺障害申請(賠償の観点から)に適切な治療の受け方や賠償の側面からアドバイスをできるのは弁護士です。もちろん、怪我の治療が最優先なので、医師のアドバイスは重要ですが、医師は治療の側面からのアドバイスであり、賠償の側面で必要な検査を受診すること、診断書に必要事項を記載してもらうことは重要です。したがって、後遺障害の申請ないし損害賠償請求に関しては、医療機関の受診と同様に、早い段階で交通事故専門の弁護士に相談したほうが適確な賠償獲得につながります。
後遺障害認定を受けるための適切な通院方法について
交通事故からしばらく経ってから病院に行っても、事故と受傷の因果関係を否定されてしまう可能性があるので、交通事故で後遺障害認定を受けるためには交通事故直後に病院を受診することが重要です。傷病に対して専門的な知識と技量があり、交通事故の被害者に理解のある病院選びが重要です。
また、通院が長期に及ぶとき、医師に対する主張が一貫していないと交通事故と症状の因果関係が否定されることもあります。訴える自覚症状が変遷すると、交通事故による後遺障害と考えにくく、後遺障害を否定される理由にもなります。
さらに、交通事故後の治療やリハビリを継続する必要があるため、症状固定するまで積極的な治療が必要です。通院の頻度が少ないと、後遺障害が残るほどの怪我ではないと疑われ後遺障害認定を受けられなくなるどころか、治療費の支払も拒絶される例もあります。
また、後遺障害は症状固定したタイミングで残存している症状なので、症状固定となるまでは通院を継続しましょう。通院期間が長くなると、加害者の保険会社が治療を打ち切って示談交渉を進めてくる場合がありますが、症状固定の判断は保険会社ではなく医師が行うものです。
それを承諾すると適切な等級の後遺障害認定を受けられなくなる可能性があるので、適切なタイミングで症状固定をすることが重要です。
後遺障害の申請手続き
病状固定判定を受けたら主治医に「後遺障害診断書」を作成してもらい、自賠責会社へ提出します。
後遺障害診断書は、自賠責保険会社を通して損害保険料率算出機構へ届けられ、ここで書面をもとに後遺障害の等級や、認定の可否など判定がなされます。
後遺障害の申請をお考えの方は、病状固定までに数ヶ月~長くて年単位で時間がかかることと、後遺障害の認定は原則として書面で行われることの2点は、特に留意しておいたほうが良いでしょう。
なお、後遺障害の申請は、『被害者請求』と『事前認定』の2通りの方法があります。
- 被害者請求
交通事故の被害者自身が、相手方の自賠責保険会社に対して後遺障害の申請を行う手続きです。後遺障害の認定は、原則として書面審査であり、書面の内容によって認定される等級や、認定そのものの可否が判断されるため、主張と立証が重要となります。 - 事前認定
相手方の保険会社が後遺障害の等級申請を行うことです。相手方の保険会社が後遺障害の申請を行ってくれるため、被害者としては簡便ですが、資料の収集を行うのは相手方の保険会社となりますので、後遺障害の認定のための主張や立証に尽くしてくれることは期待できません。
症状固定前の損害と症状固定後の損害について
交通事故に遭ったときには、症状固定するまで治療を継続しますが、症状固定前と後では発生する損害の種類が異なります。
症状固定前の損害は治療費、付添看護費、入院雑費、通院交通費、休業損害、入通院慰料などが挙げられ、症状固定後の損害は後遺障害逸失利益、後遺障害慰謝料、将来介護費用などが挙げられます。
後遺障害の等級認定表
介護を要する後遺障害の場合の等級及び自賠責保険の賠償金(別表第Ⅰ)第1級~第2級
第1級 4000万円
- 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
- 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
第2級 3000万円
- 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
- 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
- 各等級の後遺障害に該当しない後遺障害であって、各等級の後遺障害に相当するものは、当該等級の後遺障害とする。
後遺障害の等級及び自賠責保険の賠償金(別表第Ⅱ)第1級~第14級
第1級 3000万円
- 両目が失明したもの
- 咀嚼および言語の機能を廃したもの
- 両上肢をひじ関節以上で失ったもの
- 両上肢の用を全廃したもの
- 両下肢をひざ関節以上で失ったもの
- 両下肢の用を全廃したもの
第2級 2590万円
- 一眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの
- 両眼の視力が0.02以下になったもの
- 両上肢を手関節以上で失ったもの
- 両下肢を足関節以上で失ったもの
第3級 2219万円
- 一眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの
- 咀嚼又は言語の機能を廃したもの
- 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
- 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
- 両手の手指の全部を失ったもの
第4級 1889万円
- 両眼の視力が0.06以下になったもの
- 咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの
- 両耳の聴力を全く失ったもの
- 一上肢をひじ関節以上で失ったもの
- 一下肢をひざ関節以上で失ったもの
- 両手の手指の全部の用を廃したもの
- 両手をリスフラン関節以上で失ったもの
第5級 1574万円
- 一眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの
- 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
- 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
- 一上肢を手関節以上で失ったもの
- 一下肢を足関節以上で失ったもの
- 一上肢の用を全廃したもの
- 一下肢の用を全廃したもの
- 両足の足指の全部を失ったもの
第6級 1296万円
- 両眼の視力が0.1以下になったもの
- 咀嚼又は言語の機能に著しい障害を残すもの
- 両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの
- 一耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
- 脊柱に著しい変形又は運動障害を残すもの
- 一上肢の三大関節中の二関節の用を廃したもの
- 一下肢の三大関節中の二関節の用を廃したもの
- 一手の五の手指又は親指を含み四の手指を失ったもの
第7級 1051万円
- 一眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの
- 両耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
- 一耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
- 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
- 胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
- 一手の親指を含み三の手指を失ったもの又は親指以外の四の手指を失ったもの
- 一手の五の手指又は親指を含み四の手指の用を廃したもの
- 一足をリスフラン関節以上で失ったもの
- 一上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
- 一下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
- 両足の足指の全部の用を廃したもの
- 外貌に著しい醜状を残すもの
- 両側の睾丸を失ったもの
第8級 819万円
- 一眼が失明し、又は一眼の視力が0.02以下になったもの、脊柱に運動障害を残すもの
- 一手の親指を含み二の手指を失ったもの又は親指以外の三の手指を失ったもの
- 一手の親指を含み三の手指の用を廃したもの又は親指以外の四の手指の用を廃したもの
- 一下肢を5センチメートル以上短縮したもの
- 一上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの
- 一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの
- 一上肢に偽関節を残すもの
- 一下肢に偽関節を残すもの
- 一足の足指の全部を失ったもの
第9級 616万円
- 両眼の視力が0.6以下になったもの
- 一眼の視力が0.06以下になったもの
- 両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの
- 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
- 鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの
- 咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの
- 両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
- 一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
- 一耳の聴力を全く失ったもの
- 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
- 胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
- 一手の親指又は親指以外の二の手指を失ったもの
- 一手の親指を含み二の手指の用を廃したもの又は親指以外の三の手指の用を廃したもの
- 一足の第一の足指を含み二以上の足指を失ったもの
- 一足の足指の全部の用を廃したもの
- 外貌に相当程度の醜状を残すもの
- 生殖器に著しい障害を残すもの
第10級 461万円
- 一眼の視力が0.1以下になったもの
- 正面を見た場合に複視の症状を残すもの
- 咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの
- 十四歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
- 両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
- 一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの
- 一手の親指又は親指以外の二の手指の用を廃したもの
- 一下肢を3センチメートル以上短縮したもの
- 一足の第一の足指又は他の四の足指を失ったもの
- 一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの
- 一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの
第11級 331万円
- 両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの
- 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
- 一眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
- 十歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
- 両耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
- 一耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
- 脊柱に変形を残すもの
- 一手のひとさし指、なか指又はくすり指を失ったもの
- 一足の第一の足指を含み二以上の足指の用を廃したもの
- 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの
第12級 224万円
- 一眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの
- 一眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
- 七歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
- 一耳の耳殻の大部分を欠損したもの
- 鎖骨、胸骨、肋骨、肩甲骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの
- 一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの
- 一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの
- 長管骨に変形を残すもの
- 一手の小指を失ったもの
- 一手のひとさし指、なか指又はくすり指の用を廃したもの
- 一足の第二の足指を失ったもの、第二の足指を含み二の足指を失ったもの又は第三の足指以下の三の足指を失ったもの
- 一足の第一の足指又は他の四の足指の用を廃したもの
- 局部に頑固な神経症状を残すもの
- 外貌に醜状を残すもの
第13級 139万円
- 一眼の視力が0.06以下になったもの
- 正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの
- 一眼に半盲症、視野狭窄症又は視野変形を残すもの
- 両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつ毛はげを残すもの
- 五歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
- 一手の小指の用を廃したもの
- 一手の親指の指骨の一部を失ったもの
- 一下肢を1センチメートル以上短縮したもの
- 一足の第三の足指以下の一又は二の足指を失ったもの
- 一足の第二の足指の用を廃したもの、第二の足指を含み二の足指の用を廃したもの又は第三の足指以下の三の足指の用を廃したもの
- 胸腹部臓器の機能に障害を残すもの
第14級 75万円
- 一眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつ毛はげを残すもの
- 三歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
- 一耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
- 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
- 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
- 一手の親指以外の手指の指骨の一部を失ったもの
- 一手の親指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの
- 一足の第三の足指以下の一又は二の足指の用を廃したもの
- 局部に神経症状を残すもの
- 視力の測定は、万国式試視力表による、屈折異状のあるものについては、矯正視力について測定する。
- 手指を失ったものとは、親指は指節間関節、その他の手指は近位指節間関節以上を失ったものをいう。
- 手指の用を廃したものとは、手指の末節骨の半分以上を失い、又は中手指節間関節もしくは近位指節間関節(親指にあたっては、指節間関節)に著しい運動障害を残すものをいう。
- 足指を失ったものとは、その全部を失ったものをいう。
- 足指の用を廃したものとは、第一の足指の末節骨の半分以上、その他の足指は遠位指節間関節を失ったもの又は中足指節間関節もしくは近位指節間関節(第一の足指にあたっては、指節間関節)に著しい運動障害を残すものをいう。
- 各等級の後遺障害に該当しない後遺障害であって、各等級の後遺障害に相当するものは、当該等級の後遺障害とする
後遺障害の症例
後遺障害として認定される症状は様々ですが、ここでは主な症例をご紹介します。
変形障害(骨折)―6級、8級、11級、12級―
変形障害とは、交通事故による骨折によって変形が残ってしまったものを指します。
脊柱の変形・運動障害については、6級、8級、11級の後遺障害が認められる可能性があり、その基準は脊柱の頚部、胸部、腰部により異なります。
それ以外の体幹骨(鎖骨、胸骨、肋骨、肩甲骨又は骨盤骨)の変形については、変形の程度が裸体となったときに明らかに分かる程度であれば、12級の後遺障害として認められる可能性があり、後遺障害の認定を受けると224万~1296万円の賠償金額の請求ができるようになります。
変形による後遺障害は、見た目で分かる程度の変形があったとしても、症状固定時に痛みがないような場合には、後遺障害として見落とされることが多いのが現状です。
醜状障害―7級、9級、12級、14級―
醜状障害とは、交通事故による怪我や手術によって外貌に醜状痕が残ってしまったものを指します。
交通事故による怪我での醜状痕は、箇所や程度により7級、9級、12級、14級の後遺障害として認められる可能性があり、後遺障害の認定を受けると、75万~1051万円の賠償金額の請求ができるようになります。
症状固定時に痛み等が完全に消失していることもあるため、後遺障害の申請において見落とされることも多々ありますが、賠償の対象となります。
特に頭部の手術痕など、毛髪で隠れる部分も多いため見落としに注意が必要です。
高次脳機能障害―1級、2級、3級、5級、7級、9級―
高次脳機能障害とは、脳に外傷を受けることにより、言語・認知・行為・記憶・その他様々な知的能力やそれらの維持に必要な能力に支障をきたすようになる障害です。
傷害を受けた箇所により現れる症状は多岐に渡りますが、1級、2級、3級、5級、7級、9級の後遺障害として認められる可能性があり、後遺障害の認定を受けると、616万~3000万円の賠償金額の請求ができるようになります。
中心性脊髄損傷―1級、2級、3級、5級、7級、9級、12級―
中心性脊髄損傷とは、頚髄の中心部(灰白質)が損傷されたことで、麻痺などの感覚障害が現れることです。
交通事故による中心性脊髄損傷では、1級、2級、3級、5級、7級、9級、12級の後遺障害として認められる可能性があり、後遺障害の認定を受けると、224万~3000万円の賠償金額の請求ができるようになります。
むちうち症―12級、14級―
むちうち症(むちうち)とは、首の組織に損傷を受けたことで、首・肩・背中のこりや痛み、耳鳴り・頭痛・めまい・吐き気・食欲不振など様々な症状が現れることです。
交通事故によるむちうち症では、12級もしくは14級の後遺障害として認められる可能性があり、後遺障害の認定を受けると、75万~224万円の賠償金額の請求ができるようになります。
また、耳鳴りの症状が出た場合、事故から2ヶ月以内に耳鼻科に通院してオージオグラム検査(オージオメーターによる検査)を受けることをお勧めします。
さらに、オージオグラム検査で30dB(デジベル)を超える難聴がある場合には、ピッチマッチ又はラウドネスバランスなどの検査を受けることをお勧めします。
オージオグラム検査を受けて30dBを上回る難聴が認められる場合には、12級が認められる可能性があります。
ただし、どこかの帯域で30dB以上を上回る難聴が1つあると、14級の可能性があります。
耳鳴りでの後遺障害が認められた場合には、労働能力喪失期間が67歳までの逸失利益が認められる可能性があります。
後遺障害診断書とは・作成方法とポイントについて
後遺障害診断書は、後遺障害を証明するための重要な資料であり、交通事故の後遺障害認定の場面で非常に重要視されます。損害保険料率算出機構という機関において後遺障害診断書の内容が精査されて、後遺障害の有無や等級が決定されます。
後遺障害診断書を作成するタイミングは、治療を終えて「症状固定」したときなので、症状固定するまでは通院を継続する必要があります。
自覚症状の欄など、患者の訴えを記載する部分があるので、日ごろ治療を受けるときから、きちんと正確に自覚している痛みやしびれ、めまいや複視などの症状を伝えておくことをお勧めします。
後遺障害認定に対する異議申立について
後遺障害等級認定が「非該当」であったり、予想より低い等級が認定された場合、異議申立をして等級の変更を求めることが可能です。
異議申立とは、相手の自賠責保険や共済に対し、後遺障害認定の再審査を求める手続きです。
異議申立に期間制限はありませんが、示談が成立してしまうまでには後遺障害の認定を受ける必要があり、回数制限もなく、何度でも異議申立を繰り返すことが可能です。
異議申立を成功させるポイントは、非該当または等級が低くなった原因の分析をしてから、1回目に不足していた検査を受けて、新たな診断書や新たな医証に基づいて異議申立書を作成することです。
何度か異議申立を繰り返しても結果が覆らず、どうしても損害保険料率算出機構の判断に納得できない場合は、別途次のような手続きもあります。
- 自賠責保険・共済紛争処理機構への申立
自賠責保険・共済紛争処理機構は、加害者の自賠責保険・共済とは異なる機関なので、異議申立をして判断が変わらなかった場合にも結果が変わる可能性があります。
紛争処理機構が自賠責保険や共済と被害者の間に入って紛争解決を図りますが、主な調整方法は「審査」です。
話し合いではなく、書面管理によって最終的な結果(後遺障害該当の有無または適正な等級)を決定します。
- 訴訟
異議申立や紛争処理機構を利用しても解決できない場合には、訴訟によって裁判所に判断してもらうことも可能です。
自賠責保険や紛争処理機構で後遺障害が認定されなかったり、低い等級になったりしても、裁判の判決によって後遺障害の判断が変わる可能性があります。
また、裁判所は終局的な判断機関となります。訴訟を有利に進めるためには、関連する法律や裁判手続きに精通している弁護士が対応することが望ましいです。
逸失利益を否定されやすい後遺障害とは
後遺障害が認定されたとしても、労働能力に影響がないと考えられる場合は、逸失利益を否定される可能性があります。
代表的なものとしては、外貌醜状(やけどやアザ、線状痕など)、足の短縮障害、味覚・嗅覚障害、歯牙障害、脾臓の摘出、生殖器の障害、鎖骨・脊柱の変形が挙げられます。
これらは、四肢の切断や失明などの後遺障害と比較したとき、明らかに労働能力に影響があったとは考えにくいことが理由です。
ただし、仮に味覚や嗅覚を使用しなければならない職種であった場合など、個別事情に応じて判断が分かれることもありますので、粘り強い立証活動が必要です。
以上のように、後遺障害が残っても逸失利益を請求できなかったり、減額されたりするケースは意外と多いです。このようなには、交渉によって減額された分の後遺障害慰謝料を増額して支払ってもらえるケースもありますので、交通事故に精通した弁護士へ依頼することが重要です。
労災の後遺障害認定と交通事故の後遺障害認定について
労災の後遺障害認定とは、労災保険から「障害(補償)給付」という後遺障害についての給付金を受け取るための認定制度です。
通勤中や業務中に交通事故に遭った場合は、労災保険の適用となる可能性があります。
労災保険から支給を受けるためには、労働基準署に申請をして、後遺障害認定を受けなければなりません。認定そのものは異なる機関が行いますが、自賠責保険でも労災保険でも、後遺障害としての認定基準は、両者で同じになっています。
「労災の後遺障害認定」は労働基準監督署が担当し、「交通事故の後遺障害認定」は自賠責保険や自賠責共済が行います。
これらの手続きは共通ではないので、別々に申請しなければなりません。
もし、認定結果が別々になっても「そろえてほしい」という申請はできないので、個別に審査請求(労災保険)や異議申立(自賠責保険)によって対応するしかありません。
そこで、労災や交通事故の後遺障害認定申請を行うときには、交通事故に精通している弁護士によるサポートを受けると、より効果的に高い等級の認定を受けることができます。
後遺障害の認定には医学的な立証が必要となりますが、症状があっても立証を行い、後遺障害として認定までされなければ、賠償上は後遺症は存在しないものとして扱われてしまいます。そのため、豊富な経験と知識を有する交通事故・後遺障害専門的に扱っている弁護士に相談されることをおすすめいたします。