高次脳機能障害とは
高次脳機能障害とは、事故や疾病により脳が損傷を受けた結果、記憶力や注意力、遂行機能などの認知機能に問題が生じる状態を指します。外見からは分かりにくい「見えない障害」とも呼ばれ、患者本人も障害を自覚しにくいという特徴があります。
高次脳機能障害の主な症状は以下の通りです。
- 記憶障害:新しい出来事を覚えられない、約束を忘れる、物の置き場所が分からなくなるなど
- 注意障害:集中力が続かない、複数のことを同時にこなせない、気が散りやすいなど
- 遂行機能障害:計画を立てて物事を実行することが難しい、臨機応変な対応ができないなど
- 社会的行動障害:感情のコントロールが難しい、対人関係がうまく築けない、自発性の低下など
- 半側空間無視:視野の一側を無視してしまう
- 失語症:言葉の理解や表現に障害が生じる
これらの症状により、日常生活や仕事に支障をきたすケースが多く見られます。例えば、仕事中に指示を忘れてしまう、いつもの道順が分からなくなる、些細なことでイライラしてしまうなどの問題が生じます。
交通事故と高次脳機能障害
交通事故は高次脳機能障害の主要な原因の一つです。特に、以下のような事故で発症リスクが高まります。
- 頭部に強い衝撃を受ける事故(車両同士の衝突、車内での頭部打撲など)
- 脳への酸素供給が途絶える事故(一時的な心肺停止を伴う事故など)
- むち打ち損傷を伴う事故(後方からの追突事故など)
交通事故による高次脳機能障害の特徴として、症状が事故直後ではなく、ある程度時間が経ってから顕在化することがあります。例えば、退院後に日常生活や仕事に戻ってから、記憶力の低下や集中力の欠如に気づくケースがあります。そのため、初期の診断や適切な治療が遅れるケースもあり、賠償問題にも影響を及ぼす可能性があります。
高次脳機能障害の賠償金
交通事故によって高次脳機能障害を負った場合、被害者は加害者に対して以下のような賠償金を請求することができます。
- 治療費:初期治療から、リハビリテーション、カウンセリングなどの医療費。高次脳機能障害の場合、長期的なリハビリテーションが必要になることが多く、高額になる傾向があります。
- 休業損害:事故により働けなくなった期間の収入。高次脳機能障害の場合、症状が安定するまでに時間がかかることがあり、長期間の休業を余儀なくされるケースもあります。
- 後遺障害逸失利益:障害により将来的に得られなくなった収入。高次脳機能障害では、症状の程度によって就労能力が大きく左右されるため、適切な算定が重要です。
- 慰謝料:精神的苦痛に対する賠償。高次脳機能障害による日常生活への影響、将来への不安、社会的孤立感なども考慮されます。
- 付添看護費:日常生活のサポートに必要な費用。身体的介護だけでなく、記憶の補助や感情コントロールのサポートなど、精神面でのケアも含まれます。
- 諸雑費:通院交通費、器具購入費、家屋改造費など。例えば、記憶補助のためのスマートデバイスの購入費用なども含まれる可能性があります。
高次脳機能障害の場合、症状が多岐にわたり、個人差も大きいため、賠償金の算定が複雑になりがちです。また、症状の変化や将来的な影響も考慮する必要があります。
後遺障害等級の認定と問題点
高次脳機能障害の賠償金を決める上で重要なのが、後遺障害等級の認定ですが、高次脳機能障害は「見えない障害」であるため、適切な等級認定が難しいことが特徴です。
例えば、記憶障害や注意障害があっても、簡単な会話や動作は可能な場合、障害の程度が軽く見積もられてしまうことがあります。また、症状に波があり、調子の良いときと悪いときの差が大きいことも、正確な評価を難しくする要因となっています。
高次脳機能障害に関連する後遺障害等級の例:
- 1級:精神神経系統の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
- 3級:精神神経系統の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
- 5級:精神神経系統の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
- 9級:精神神経系統の機能に障害を残し、労務の遂行が相当な程度に制限されるもの
適切な等級認定を受けるためには、以下のような証拠を丁寧に集める必要があります。
- 専門医による詳細な診断書
- 神経心理学的検査の結果
- 日常生活の様子を記録した介護記録
- 職場や学校からの状況報告書
- リハビリテーション施設からの評価書
これらの証拠を基に、高次脳機能障害が日常生活や就労にどの程度の影響を与えているかを具体的に示すことが重要です。
就労可能性の評価
高次脳機能障害では、一見すると普通に会話ができたり、簡単な作業はこなせたりする場合があります。そのため、保険会社から「ある程度の就労は可能」と判断され、後遺障害逸失利益が低く算定されることがあります。
しかし、実際には以下のような問題により、実社会での就労には多くの困難が伴います。
- 注意力や集中力の持続が難しい
- 複数の作業を同時にこなせない
- 新しい情報を覚えられない、以前の知識を思い出せない
- 感情のコントロールが難しく、対人関係にトラブルが生じやすい
- 指示の理解や状況判断が困難
例えば、事務職の場合、電話対応しながらパソコン入力するといった複数作業の同時進行が難しくなります。営業職であれば、商談の内容を覚えられない、クレーム対応で感情的になってしまうなどの問題が生じる可能性があります。
したがって、就労可能性の評価に際しては、以下のような要素を総合的に判断することが重要です。
- 神経心理学的検査の結果
- 職業リハビリテーションの専門家の意見
- 模擬的な就労体験
- 被害者の職歴やスキル
これらの証拠を基に、高次脳機能障害が就労に与える具体的な影響を詳細に立証することが重要です。
アジア総合法律事務所に依頼するメリット
高次脳機能障害の賠償問題は、専門的な知識と経験が必要とされます。被害者やその家族だけで対応するのは難しいため、アジア総合法律事務所にご依頼いただくことで次のようなメリットがあります。
- 適切な後遺障害等級の認定をサポート:専門医の紹介、神経心理学的検査の手配、証拠収集の支援
- 保険会社との交渉:被害者の症状や影響を正確に伝え、公正な賠償金を獲得するための交渉
- 各種手続きのサポート:ご自身が加入している医療保険や労災保険、健康保険等の手続きについて支援
- 被害者や家族のメンタルサポート:高次脳機能障害による心理的なストレスや不安に対するケア
交通事故による高次脳機能障害は、その存在を正しく立証する必要があります。専門的な知識を持つ弁護士のサポートを受けることで、適切な後遺障害等級の認定、公正な賠償金を獲得など、被害者の生活再建につながります。
また、具体的な賠償金額や補償内容についても、詳細に説明し、納得のいく形で解決を目指します。
交通事故による高次脳機能障害のまとめ
交通事故による高次脳機能障害は、被害者とその家族の人生を一変させてしまう重大な事態です。また、ご家族にも常時の介護が必要となり、経済的にも大きな負担を強いられます。
そのような状況で、適正な賠償金を得ることは、被害者の家族の生活を支えるために欠かせません。しかし、賠償金の計算には専門的な知識が必要であり、保険会社との交渉も簡単ではありません。
特に、後遺障害の等級をめぐる判断については、保険会社の主張をそのまま受け入れるべきではありません。高次脳機能障害の被害に遭われた方は、ぜひ弁護士に相談ください。当事務所では被害者専門の法律事務所であり、適切な賠償の獲得に向けてサポートいたします。
高次脳機能障害という重大な事態に直面し、不安を抱えている方が、少しでも平穏な生活を取り戻せるよう、弁護士として最善を尽くす所存です。どうか、一人で悩まずお早めにご相談ください。