遷延性意識障害とは
遷延性意識障害とは、交通事故などの外的要因によって脳が損傷を受け、意識が回復しない状態が長期間続くことを指します。いわゆる「植物状態」とも呼ばれます。
遷延性意識障害の主な特徴は以下の通りです。
・ 目覚めているように見えるが、意識がない
・ 自発的な反応がない
・ 言葉によるコミュニケーションができない
・ 自力での摂食や排泄ができない
このような状態が数か月以上続くと、遷延性意識障害と診断されます。残念ながら、現在の医学では完全な回復は難しいとされています。
交通事故で「遷延性意識障害」の状態になると、被害者の逸失利益や将来介護費用の請求の際に、いろいろな問題が発生することがあり、特に遷延性意識障害で保険会社が主張することの多い「生活費控除」と「平均余命」の問題について、福岡の弁護士が解説します。
交通事故と遷延性意識障害
遷延性意識障害の主な原因として交通事故があげられます。特に、高速道路での事故や正面衝突、歩行者や自転車利用者に対する事故などでは、脳に重大な外傷を受けるリスクが高くなります。
交通事故によって遷延性意識障害になると、被害者は自力で何もできない状態となります。常時の介護が必要となり、医療費や介護費用も高額となります。
交通事故による遷延性意識障害の賠償金
交通事故においては、一般的に「治療費・交通費・慰謝料・休業損害」等が賠償として支払われますが、遷延性意識障害になった場合、下記の項目についても、賠償として請求することができます。
・ 後遺障害慰謝料:被害者に後遺障害が認定されることで生じる慰謝料
・ 逸失利益:交通事故に遭わなければ、被害者が得られたであろう利益
・ 将来介護費:被害者に後遺障害が認定され、将来にわたって介護が必要となる場合の介護費用
・ 介護住宅費:被害者が住み続けるための住宅関連費用(バリアフリー改修費用、介護施設入居費用等)
・ 介護機器(車両、車椅子等を含む将来の買替費用)
・ 将来介護雑費:長期的に介護が必要となった被害者に対して、将来的に発生する日常的な介護関連の雑費(介護用品等)
・ 症状固定後の治療費(定期検査にかかる費用、リハビリ費用、医療器具の使用料等)
特に、後遺障害逸失利益と将来介護費用は、遷延性意識障害の場合、高額になる傾向があります。
なぜなら、遷延性意識障害は後遺障害等級1級に該当し、労働能力喪失率は100%とされるからです。また、常時の介護が必要となるため、将来介護費用も長期間にわたって発生します。
遷延性意識障害による逸失利益と生活費控除
交通事故が原因で遷延性意識障害(植物状態)になると、被害者は意識が混濁した状態が続きますから、自分では何もできません。また、残念ながら今の医学では回復可能性も低く、遷延性意識障害となると、後遺障害は1級が認められています。
後遺障害1級となる場合、労働能力喪失率100%として、後遺障害逸失利益を請求することができます。後遺障害逸失利益とは、後遺障害が残ったことで働けなくなったために得られなくなった、将来の収入のことです。
ところが、遷延性意識傷害のケースで被害者が加害者に後遺障害逸失利益を請求すると、相手方保険会社から「生活費控除」を主張されることが多いです。生活費控除とは、被害者の生活費がかからなくなった分、逸失利益を減額するという考え方です。
一般的には、死亡事故のケースでも、被害者が死亡すると被害者の生活費がかからなくなるため、生活費控除を行います。
相手方保険会社は、遷延性意識障害の場合にも、死亡事故と同様に普通の人より生活費がかからないから生活費控除をするように主張するケースが多々あります。
しかし、遷延性意識障害の場合であっても被害者は生きているわけですから生活費はかかります。裁判例でも、遷延性意識障害のケースで生活費控除を否定するものがありますので、保険会社がこのような主張をしてきても、鵜呑みにすべきではありません。
将来介護費用と平均余命
遷延性意識障害になると、基本的に一生常時の介護が必要な状態となります。
そこで、加害者に対し、将来介護費用を請求することができます。
将来介護費用は、基本的に「症状固定時の平均余命」の分が認められることが通例です。そのくらいは生きるだろうという目算があるためです。
しかし、遷延性意識障害の場合、加害者の保険会社は、「遷延性意識障害の場合、健康な人よりも寿命が短いので、平均余命を短くすべきだ」と主張してくることが多いです。
実際に、統計データによって、遷延性意識障害の患者の生存率が低いことを持ち出してくるので、被害者の家族も「仕方が無いのかな」と思ってしまいがちです。
しかし、今後の医学の発展により、遷延性意識障害の患者の平均余命が延びる可能性も大いにありますし、現在の状態でも、遷延性意識障害の患者で健康な人と同じように長生きしている方もおられます。
そこで、裁判所は、基本的に遷延性意識障害の患者の平均余命を短くする考えはとっていません。
相手方保険会社が、遷延性意識障害で平均余命を短くして将来介護費用を計算してきても、受け入れるべきではありません。
弁護士に相談することの重要性
遷延性意識障害の賠償金請求は、複雑で専門的な知識が必要となります。
相手方保険会社との交渉においても、将来介護費、介護住宅改修費用、将来介護雑費等、多岐に渡り損害項目が存在し、将来介護にかかる費用の議論においては、現実のサービス利用にかかる自己負担額の限度で認定すべき主張されたり、家族の介護負担を加味して、しばしば安価な賠償で妥協することで、被害者は不利な内容で示談に応じることが考えられます。
このように、遷延性意識障害になった被害者の家族は、突然の事故によって大きな精神的ショックを受けながら、保険会社と交渉を進めたとしても、介護住宅費用の必要性を妥協するなど、冷静に判断することが難しい状況が考えられます。
そのため、遷延性意識障害の賠償金請求は、弁護士に相談することを強くおすすめします。
弁護士は、交通事故被害者の専門家として、遷延性意識障害となった方に対して十分な補償が受けられるようあらゆる手段を尽くします。保険会社が提示する賠償金額が適正かどうか判断が難しい場合も、弁護士に相談することで、適切なアドバイスを実施しております。
特に、遷延性意識障害のように、生活費控除や平均余命をめぐる争点については、専門的な知識が必要となります。保険会社の主張をそのまま受け入れずに、弁護士に相談することが重要です。
交通事故による遷延性意識障害のまとめ
交通事故による遷延性意識障害は、被害者とその家族の人生を一変させてしまう重大な事態です。また、ご家族にも常時の介護が必要となり、経済的にも大きな負担を強いられます。
そのような状況で、適正な賠償金を得ることは、被害者の家族の生活を支えるために欠かせません。しかし、賠償金の計算には専門的な知識が必要であり、保険会社との交渉も簡単ではありません。
特に、生活費控除や平均余命をめぐる争点については、保険会社の主張をそのまま受け入れるべきではありません。遷延性意識障害の被害に遭われた方は、ぜひ弁護士に相談ください。当事務所では被害者専門の法律事務所であり、適切な賠償の獲得に向けてサポートいたします。
遷延性意識障害という重大な事態に直面し、不安を抱えている方が、少しでも平穏な生活を取り戻せるよう、弁護士として最善を尽くす所存です。どうか、一人で悩まずお早めにご相談ください。