近親者の付添看護費と休業損害の関係

交通事故でケガをすると、家族などの近親者に付添看護してもらうことが多いです。
家族が有職者の場合には、仕事を休んで付き添ってもらうべきケースもありますが、その場合、家族の休業損害は補償されないのでしょうか?
今回は、近親者の付添看護費用と休業損害の関係について、解説します。
1.基本的な付添看護費用の計算方法
交通事故で入院をすると、付添看護が必要です。
配偶者などの家族に付き添ってもらった場合には、加害者に対し、「付添看護費用」を請求できます。
近親者による付添看護を受けた場合、金額は、1日当たり6,500円として計算されます。
2.休業損害が発生している場合
2-1.仕事を休んで付添看護した場合の考え方
しかし、近親者が仕事をしていることがあります。
たとえば、会社員や自営業者の夫が、交通事故に遭った妻に付き添って看護をするケースもあるでしょう。
このような場合には、夫は仕事を休んで付添看護をしなければなりません。すると、仕事ができなくなり、休業損害が発生すると考えられます。
その場合でも、上記で紹介した「1日当たり6,500円」の付添看護費用しか請求できないのでしょうか?
実は、このように、有職者が仕事を休んで付添看護をした場合には、1日当たり6,500円の付添看護費用ではなく、実際の休業損害の金額を請求できる可能性があります。
具体的には、上記の1日当たり6,500円の付添看護費用と、実際に発生した休業損害の金額を比較して、どちらか高い方を請求できることとされています。
2-2.具体例
たとえばサラリーマンで直近3ヶ月(90日間)の収入が80万円の夫が、交通事故に遭った妻のために10日間付添看護をすると、8,888.8円×10日=88,888円の休業損害を請求できます。(80万円÷90日=8888.8円)
3.休業損害がプロの付添看護費用を超える場合
ただ、休業損害の金額があまりに高額になると、全額の請求が認められないことがあります。休業損害の額が、プロの看護師を雇った場合の代金より高額になるケースです。
このような場合、近親者が付き添うよりもプロの看護人を雇う方が合理的であると考えられるので、職業看護人の代金相当額まで、休業損害が減額されます。
たとえば、近親者の休業損害の金額が2万円を超える場合などには、1万円あまりの金額に減額される可能性があります。
たとえば、裁判例でも、近親者による1日当たりの休業損害額が11,286円に制限された事例があります(徳島地裁阿南支部平成13年5月31日)。
4.例外として、実際の休業損害が認められる場合
このように、近親者の休業損害額が高額過ぎる場合には、職業看護人の費用相当額に抑えられるのが通例ですが、これにはさらに例外があります。それは、近親者による付添看護が特に必要であり、職業看護人では対応が難しいケースです。
その場合、近親者の休業損害額が職業看護人の費用を超えていても、実際の休業損害額が認められる可能性があります。
たとえば、被害者が7歳の子供で遷延性意識障害となり、親による付添が必要で代替性がないと認定されたケースにいて、親の実際の休業損害額が認められた事例があります(大阪高裁平成14年5月23日)。
以上のように、近親者が付添看護をした場合の補償の考え方は非常に複雑で、専門的な判断が必要です。福岡で交通事故に遭われて対応に迷っておられるならば、一度弁護士までご相談下さい。
【関連コラム】
交通事故で請求できる、付添看護費用とは
遷延性意識障害の「生活費控除」と「平均余命」の問題とは?