PTSDは交通事故の「見えない後遺症」|適切な補償を受けるために
交通事故は、身体的なケガだけでなく、精神的な傷(トラウマ)を残すことがあります。その代表的なものが「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」です。この記事では、交通事故によるPTSDについて、症状や診断基準、治療方法、そして損害賠償の観点からの補償までをわかりやすく解説します。
PTSDとは?
PTSD(Post-Traumatic Stress Disorder)とは、命の危険や強い衝撃を受けるような体験(=心的外傷)をしたあとに、強い恐怖や不安、フラッシュバック、回避行動などが持続的に現れる精神障害です。
これらの症状は、日常生活や社会生活に支障をきたすことがあり、適切な治療を受けずに放置すると、慢性化したり、不安障害などにつながるケースもありますので、注意が必要です。
交通事故によるPTSDの症状
事故後から症状が1か月以上持続しており、生活・仕事・人間関係に支障がある場合は「PTSD」と診断される可能性があります。
交通事故によるPTSDでは、以下のような症状がみられることがあります。
1.回避症状(Avoidance)
事故を思い出させるものを避けようとする反応。
- 車や道路に近づけない
- 運転・同乗ができなくなる
- 事故の話題を避ける
- 関係する場所や人を避ける(例:病院・保険会社・警察など)
2.再体験症状(フラッシュバック、悪夢)
事故体験が繰り返し頭に浮かび、精神的に再体験してしまう症状。
- 事故当時の場面が突然よみがえる
- 寝ている間に事故の夢を見る(悪夢)
- 音・光・匂いなどで強く反応する(車の音やタイヤのにおい等)
3.過覚醒症状(Hyperarousal)
常に神経が張りつめ、些細な刺激に敏感になる状態。
- 睡眠障害(寝つきが悪い、夜中に何度も起きる)
- 突然の物音や声に驚きやすくなる
- 常に周囲を警戒している(過剰な警戒心)
- イライラしやすくなる、怒りっぽくなる
4.感情・認知の変化(Cognitive and Mood Alterations)
- 気分の落ち込み(うつ状態)
- 自責感(「自分のせいで事故が起きた」など)
- 無気力・興味喪失(好きだったことにも無関心に)
- 他人や社会への不信感
また、もしご家族の小さな子どもや乳幼児などが被害者の場合、上記症状に加えて、遊びのなかで事故を再現する再演行動や、夜泣きなどにつながることもあります。
こうした症状は、事故から数週間~数か月経ってから現れることもあるため、注意が必要です。
PTSDの診断と治療
PTSDの診断は、心療内科や精神科、メンタルクリニックで行います。
診断は、以下のようなプロセスで総合的に判断されます。
問診(主訴の聞き取り)
- 「事故のときの記憶が突然よみがえることがありますか?」
- 「事故の夢を見ますか?」
- 「事故以来、生活が変わりましたか?」など
チェックリスト・診断基準の使用
- DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル)に基づく診断
→ PTSDと診断されるには、以下の主要な症状が1か月以上継続している必要があります。- 再体験(フラッシュバック)
- 回避(事故に関連する場所・人・話題を避ける)
- 過覚醒(睡眠障害・怒りっぽいなど)
- 感情や思考の変化(うつ状態・無気力)
必要に応じて心理検査
- CAPS(Clinician-Administered PTSD Scale)などの尺度を使った評価
上記検査の後、PTSDと診断されましたら、主に以下のような治療が行われます。
1.精神療法(カウンセリング・心理療法)
● 認知行動療法(CBT)
- 「恐怖・不安・誤解された思考パターン」を修正する治療法
- 安全な環境で、事故体験を客観的に見直すトレーニング
● 曝露療法(トラウマ記憶の再処理)
- あえて事故の記憶を扱い、恐怖反応を徐々に弱める方法
● EMDR(眼球運動による脱感作と再処理)
- トラウマ記憶を処理する新しい治療法。近年注目されている。
2.薬物療法
精神症状が強い場合は、医師の判断で抗不安薬や抗うつ薬、睡眠導入剤などといった薬を併用することがあります。
早期の治療が、日常生活への復帰や後遺障害の予防に有効です。
PTSDは後遺障害として認定される?
交通事故によりPTSDを発症し、一定期間の治療を経ても症状が一進一退(=症状固定)になったあとも、日常生活や就労に支障をきたす場合には、後遺障害として認定される可能性があります。
自賠責保険で認定される等級例:
- 9級10号、12級相当、14級相当 など(症状の程度により異なる)
ただし、医学的証明と事故との因果関係の立証が必要なため、診断書や心理検査結果、治療経過の記録などを適切に準備する必要があります。
PTSDの損害賠償請求
PTSDと事故との因果関係が認められた場合、以下のような損害を請求することができます。
損害項目 | 内容 |
---|---|
治療費関係 | 通院費・薬代・精神科カウンセリングなど |
通院交通費 | 通院にかかる交通費(公共交通・タクシー等) |
休業損害 | 症状のために仕事を休んだ期間の補償 |
慰謝料(傷害慰謝料) | 通院日数や治療期間に応じた精神的損害への賠償 |
後遺障害慰謝料・逸失利益 | 後遺症が残り等級認定された場合に請求可能 |
なお、等級に応じた後遺障害慰謝料の相場は、次のとおりです。
等級 | 自賠責基準 | 後遺障害慰謝料(弁護士基準) |
---|---|---|
9級10号 | 249万円 | 690万円 |
12級相当 | 94万円 | 290万円 |
14級相当 | 32万円 | 110万円 |
弁護士に相談するメリット
PTSDは「目に見えない心のケガ」であるため、後遺障害等級認定のハードルは高いです。
医師の診断書のほか、症状の継続性・生活への影響などを客観的に示す資料が必要であり、事故との因果関係が否定されやすい傾向にあります。
弁護士が介入することで、医学的資料の整備や意見書の取得などに加え、事故との因果関係の立証など、多角的にサポートすることができるため、適切な補償が受けられる可能性が高まります。
また、ご依頼いただくことで弁護士に交渉窓口をすべて一任できるため、後遺障害慰謝料、休業損害、逸失利益などの損害を正当な基準(弁護士基準)で請求でき、加えて心身の負担を軽減し、治療や回復に専念することができます。
お困りの方へ|ご相談ください
PTSDは外見ではわかりにくく、理解もされにくい後遺障害であることから、ご本人だけで抱え込んでしまうことも少なくありません。
心のダメージは、身体のケガと同じように適切な治療と補償が必要です。
心身の健康ために、まずは「つらい気持ちは甘えではない」ことを本人や周囲の家族が理解することも大切です
当事務所では、被害者に寄り添った心のケアに加えて、PTSDなどの精神的後遺障害に関しても、交通事故に精通した弁護士が後遺障害等級の申請サポートから示談交渉まで一貫して対応しております。
お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。