交通事故による高次脳機能障害の症状 - 福岡の交通事故弁護士

               

交通事故による高次脳機能障害の症状

交通事故による高次脳機能障害の症状

高次脳機能障害とは、交通事故などの外傷で脳に強い衝撃を受けることで発症します。
高次脳機能障害の症状は、脳の高次な機能を司る部分の障害ですので、後遺障害として見落とされやすい障害ともいえます。

高次脳機能障害の症状は、記憶力障害や遂行能力障害、社会的行動、性格の変化など事故前には当たり前に行えていたことができなくなるのですが、その苦しみをなかなか他人に理解してもらうことができずに悩んでいる方も多くおられます。

交通事故や労災事故で脳の障害を負った場合には、些細な事故前の変化などに気が付くことが重要です。高次脳機能障害の特徴として、被害者の方本人は症状の認識がないということがありますので、家族や周囲の人々の気付いてあげることも重要となります。

そこで、今回は、高次脳機能障害がどのような障害であるのかをまとめていきたいと思います。交通事故に遭われた方の参考になれば幸いです。

遂行機能障害

計画的な行動ができない

遂行機能障害とは、目標を設定したあと、その過程を計画・効果的に行動していくことができなくなる(計画が立てられない)症状や、最適な判断を下し、行動を修正しながら物事を進めるといったことが難しくなる(要領が悪い)症状のことをいいます。

私たちは、日々の生活において、

  1. 目標の設定
  2. 計画
  3. 実行
  4. 評価・判断

という行為を繰り返しており、この一連の作業を“遂行機能”といいます。

私たちはこの一連の作業を日常生活の中で当たり前のように行っており、その典型例の1つに料理が挙げられます。
まず、何を作ろうかを決め(①)、そのための材料を集めレシピを用意し(②)、調理し(③)、味見をして味を整える(④)というような一連の動作です。

交通事故などによる脳の損傷により、①や②の部分に障害が起こると、計画的に行動することが困難になります。明確なゴールを設定できないままに行動を開始してしまうため、計画性のない行き当たりばったりの行動が目立つようになってしまうのです。
また、指示されないと、自分では何からやればいいのか分からないというのも症状の1つとして挙げられます。目標(ゴール)を設定できないため、行動の開始が困難になってしまうからです。1つ1つの作業は問題なくできる場合でも、それらを組み合わせた一連の流れで行おうとすると、とたんにできなくなるというのが特徴的です。

また、③と④の機能を司る部分に障害を負うと、段取りや要領が悪くなったり、行動が自己流になったりしがちです。ある行動について、もっと効率の良い方法があるにもかかわらず、1つのやり方に固執するため、非効率なままで推し進めてしまいます。また、行動を修正することができないため、何度も同じ失敗を繰り返してしまうこともあります。
このような遂行機能障害の症状がみられる場合、周囲のサポートとして、まずは本人に一連の行動を繰り返し練習させることが重要です。基礎的な行動ができるようになったあと、徐々に難易度を上げていくことで、行動は上達していきます。
なお、新しいことや脳が疲労を感じた時などには、遂行機能障害の症状が現れやすくなりますので、本人のペースを尊重し、負荷をかけないよう注意してください。

目次に戻る ▲

 

行動開始の障害:行動が億劫になる

行動開始の障害とは、何かの行動を起こすときに物事に取りかかることが出来ないという症状のことをいい、遂行機能障害の症状の一つです。
その行動自体ができないのではなく、やる気がないのでもありません。自発性が低下し、自分自身でスタートを切ることができないのです。
第三者から促され、いざ行動を始めてしまうと、その後の行動は問題なくできてしまうことが多々ありますので、周囲の人々による気付きと声掛けによって、徐々に習慣化できるようになります。
ただし、うつ病と似た症状が現れた場合には、医師へ相談し、適切な薬物療法と心理療法での改善をはかることが大切です。

目次に戻る ▲


記憶障害

逆向健忘:昔のことが思い出せない

記憶障害の一つで、発症以前の出来事を思い出せなくなることがあります。
記憶とは、過去の情報の蓄積です。

  • 経験したり見聞きしたりしたことを覚え(記銘)
  • 重要なことは貯めておき(保持)
  • 必要な時に思い出す(想起)

という、脳内における一連の活動の総称ともいえます。
この記憶とは、図書館の本棚のように整理されて並べられているわけではありません。様々な事象や事柄がばらばらにあり、それらが必要に応じて脳内細胞によって繋ぎ合わされることによって、記憶という形になるのです。
この脳内細胞によって繋がれた情報のネットワークが働かなくなることを、記憶障害といいます。また、記憶には日々の経験に基づいたエピソード記憶、知識として蓄積された意味記憶、いわゆる体が覚えている状態である技能的な手続き記憶などがありますが、一般的に記憶障害とはエピソード記憶の障害を指します。
つまり、人の顔や名前、昨日どこで何をしていたかなどが思い出せない、物忘れの激しい状態になります。発症の数分~数年前と、思い出せなくなる期間の長さは個人差がありますが、受傷、発症の直前の記憶が最も障害を受ける可能性が高くなります。
また、すべての記憶を失う場合もあれば、部分的な記憶のみが失われることもあります。特に、自分自身のことについてすべてを思い出せない状態を“全生活史健忘”と呼び、脳損傷の場合には、逆向健忘と前向健忘(新しいことが覚えられない)が同時に起こることもあります。
現代医学では、高次脳機能障害を100%完治させることはできません。ただ、根気強くリハビリを繰り返すことで、進行を遅らせたり徐々に回復が見られたりすることは多々あります。
記憶障害をもつ方の中には、自信をなくし不安を抱きやすくなる方もいらっしゃいますので、「できないこと」ではなく「できること」に目を向けて安心してもらうなど、心理面へ配慮することも大切です。

目次に戻る ▲

前向健忘:新しいことが覚えられない

記憶障害の一つで、発症以降にあった出来事を思い出せなくなる症状(記憶ができない)や、話をしているときに話の内容が横道に逸れていき、何の話をしていたか思い出せなくなる症状(ワーキングメモリーの損傷)をいいます。脳損傷の場合には、逆向健忘(昔のことが思い出せない)と同時に起こることもあります。
これまでの経験や学習によって得た様々な情報を脳内に保存し、必要に応じて脳内細胞が繋ぎ合わせることで思い出すことを記憶といいます。この脳内細胞によって繋がれた情報のネットワークが働かなくなることを記憶障害といい、高次脳機能障害の典型的な症状の1つとして挙げられます。
記憶障害の中で、交通事故に遭った以降の出来事を思い出せなくなることを“前向健忘”といいます。最近に経験したことを思い出せなかったり、新しいことを学習できなくなったりするのです。記憶には日々の経験に基づいたエピソード記憶、知識として蓄積された意味記憶、いわゆる体が覚えている状態である技能的な手続き記憶などがありますが、一般的に記憶障害とはエピソード記憶の障害を指します。
前向健忘では、交通事故以前の昔の記憶や体験的に学習したことは比較的覚えている方が多いです。また、記憶力の欠如については個人差が大きく、数分前の出来事を全く覚えていない重度のものから、ある程度は覚えることができても、同時に複数のことを覚えようとすると、どれかが抜け落ちてしまうといった症状が生じることがあります。
また、前向健忘の中には新しいことが覚えられないという症状が生じる場合もあり、短期的に記憶が出来なくなる症状を、ワーキングメモリーの損傷といいます。
ワーキングメモリーとは、作動記憶や作業記憶とも呼ばれ、短期的に情報を保持し、同時に処理する能力のことを指します。例えば、人との会話において「○○がいいと思う」という相手に対し「私は××のほうがいい」と返す事などのことです。一見なにげない行為ですが、これは相手の話を一時的に記憶し、それに応じた自分の考えを構築する作業を繰り返すことで会話を成立させているのです。
ワーキングメモリーに損傷を負うと、一時的な記憶が難しくなるため、会話が横道にそれたり、1つのテーマについて話し合うことが苦手になったりすることがあります。
本人が何か記憶する際に、注意が他の方向にそれてしまうと、うまく記憶できなくなってしまうことがわかっていますので、なるべく気が散る状況を避け、静かな環境を作るのも良いといわれています。
また、人によっては耳から入ってきた情報であれば記憶できたり、文字に書いて視覚化することで記憶できる人もいます。
ただし、記憶障害は個人差が大きく、人によっては音楽を聴きながら作業することで記憶しやすくなるというケースもありますので、個々に応じた環境づくりを行うがポイントとなります。

目次に戻る ▲

作話:ありもしない話をつくるようになる

作話とは、実際には体験していないことをあたかも体験したことのように話す症状のことです。
記憶障害の一種であり、その多くは、周囲の人の話やテレビで見聞きしたことなど外的な刺激に影響され、過去に体験した自分の記憶の断片を修復することで話が作り出されます。
作話でよく見られる状況は、その時々の会話の中で発生する記憶の欠損や、それによる戸惑いを埋める形で出現する、”当惑作話”と呼ばれるものです。そのため、話し相手の問いかけから誘発されることが多く、話す内容にも一貫性がありません。
周囲の人間にとって難しいのは、症状が出ていることを判断しづらい点です。家族など身近な人であれば、会話の内容が作話であるのかどうかはある程度判断しやすいのですが、滅多に接することがない人にとっては、本人が真面目に流暢に話すため判断できず、トラブルの原因となる場合があります。
また、仮に作話であるとわかった場合でも、その内容を真っ向から否定すると、戸惑いを助長しさらなる作話を誘発する可能性があるため、対応にも注意が必要です。
脳外傷の後に話の内容がコロコロと変わったりする、自身が体験していない出来事を作って話すといった症状がある場合には、高次脳機能障害の可能性が考えられます。
作話であると気付いたときに、こちらが意見をすることでさらなる作話を助長してしまうことにもなりかねません。
本人の話を真っ向から否定せず、軽く話を受けて話をそらし、作話について問いかけたり付き合ったりしないことが大切です。
場合によっては、作話があると気付いたときに、比較的親しい周りの人たちにも症状があることは伝えておいても良いかもしれませんね。

目次に戻る ▲

相貌失認:人の顔が分からない

人の顔の表情などの読み取りができなくなるという症状が出ることがあります。
このような症状を相貌失認と呼んだりします。微妙な顔の変化が分からなくなったり、容貌の変化を区別することができなくなります。
相貌失認は、後頭葉を損傷した場合に起こることが多いようですが、びまん性損傷の場合にも相貌失認の症状が現れることがあります。
相貌失認の検査としては、リパーミード行動記憶検査(RBMT)をすることがあります。
主治医の顔がわからない、新しく出会った人の顔を覚えられないなどの症状があれば、一度医師へ相談してみることをおすすめします。

目次に戻る ▲


注意障害

注意転換の障害:切り替えができない

注意転換の障害とは、特定の対象に強く固着してしまい、他の対象や物事に対して注意を速やかに切り替えることが出来なくなることをいい、注意障害の一つです。
ある物事に注意が向けられているとき、別の重要な情報に気がついて注意を切り替えて、その後、元々注意を向けられていた情報や行動に意識を戻すことを、”注意の転換”といいますが、高次脳機能障害の症状として、注意の転換ができなくなることがあります。
例えば、料理中にかかってきた電話に気付かなかったり、気づいて電話に出ても、電話が終わったあとに再び料理に戻れなかったりするなどといった症状が挙げられます。
周囲にできるサポートとして、こまめに声掛け確認を行ったり、できるだけ静かな環境を整えることが大切です。また、集中すると休憩を忘れて没頭してしまうこともあるので、タイマーをセットし休憩時間をしっかり確保することも効果的です。
注意障害は、本人の感情や疲労とも密接な関係があるといわれておりますので、不安を軽減させて成果をしっかり褒めて評価するなど、感情的な安定を図ることも大切です。

目次に戻る ▲

注意分配の障害:同時処理ができない

注意障害の一つで、いくつかの物事に対し、同時に注意を向けながら行動する能力が低下することがあります。
例えば、助手席の人と話しながら車の運転をする、鍋を火にかけているあいだに洗濯物の取り込みをするといったことです。交通事故に遭う前であれば特に意識しなくても出来ていた物事の同時処理が、高次脳機能障害により出来なくなってしまうのです。
対策として、一つの物事に集中できる環境を用意することが重要です。どうしても一度にしなければならない作業が複数ある場合には、順番に一つずつクリアできるよう、作業メモを作成することも効果的です。
また、本人が完了した作業を確認・認識できるよう、作業メモにチェックリストを準備することで、作業への注意力が持続できるようになります。

目次に戻る ▲

選択的注意障害:注意が散漫

選択的注意障害とは、複数ある情報の中から必要なものだけを選ぶことができずに、注意が散漫になる症状のことをいい、注意障害の一つです。
例えば、大勢の人の中から友人を見つける、賑やかな場所で自分に話しかけられた声を聞き分けるといったことです。この選択的注意に障害があると、あらゆる場面で見落としや聞き漏らしが増えます。また、他の社員がいるオフィスでは、気が散って仕事に集中できないといった症状が出ることもあります。
このような場合には、視線を本人に向け、本人もこちらを向いていることを確認したうえで、言葉だけでなくジェスチャーなどを用いて注意をひくことが効果的です。
集中力が続かず、作業がなかなか進まないというような場合には、あらかじめ長めに期日を設定して伝えておくと良いでしょう。そうすることで、本人も休憩を取りやすくなります。

目次に戻る ▲


社会的行動障害

固執性:物事に固執する

固執性とは、ささいな事へのこだわりが強くなり物事に執拗に固執する症状のことをいい、社会的行動障害の一つです。
周囲が指摘したり、制止したりしようとしてもやめることができなかったり、日常生活においても、あらゆる行動で一定の手順を踏まなければいけないと思い込んだりすることがあります。
その他にも、収集癖がみられたり、福祉活動などに真剣に臨めなくなることなどがあります。
周囲のサポートとしては、あらかじめ手順や作業回数、時間の説明を行ったり、気持ちの切り替えを促すことなどが挙げられます。
こだわりが強く、不安を抱いてしまうような場合には、専門医へ相談してみましょう。

目次に戻る ▲

生活のリズムが狂う

高次脳機能障害の症状の一つに、主に昼夜が逆転し、生活のリズムが狂うことがあり、社会的行動障害の一つです。
規則正しい生活は、健康を維持するため、社会生活を送るうえでも重要なことの1つです。しかし、意欲・発動性の低下により昼間ボーッとして過ごしてしまい夜眠れなくなる、欲求のコントロールができずにネットやゲームに夢中になりすぎるといったことが原因で生活のリズムが狂うと考えられています。
対策の一つとして、まずは、朝起きる習慣をつけることを心がけましょう。
朝起きたらカーテンを開け、日光を浴びて深呼吸をするなど、少しずつできることから初めてみましょう。これに慣れてくると、徐々に日中の活動時間が延ばすことができるようになってきますので、食事や散歩などで外出する機会を増やすなど、活動量を増やしつつ生活リズムを整えるようにしましょう。

目次に戻る ▲

感情コントロールの低下

主に感情を制御する前頭葉、特に外側眼窩前頭回路の損傷することで、脱抑制、易怒性と呼ばれる症状が現れ、自分の感情がコントロールしにくくなることがあります。
年齢の高低にかかわらず、社会の中で生活してきた人間であれば、たとえ怒りを覚えたとしても、ここで感情を爆発させたら相手はどう思うだろうか?自分はどう思われるだろうか?と考える瞬間があります。
しかし、高次脳機能障害の症状による場合、この思考ができなくなり、思ったら口に出さずにはいられない状態になり、社会的行動障害の一つとして挙げられます。もちろん、元々障害がなくても怒りっぽい性格の人や、余計な一言が多いタイプの人もいます。感情表現については個人差があるため、交通事故の前と後との性格の変化などが見極めのポイントになるでしょう。
なお、この症状は、他人とのトラブルに発展しやすく、社会復帰を阻害する要因になる可能性があるということも注意すべき点といえます。また、怒りだけでなく、ちょっとしたことで泣いたり、大笑いしたりと喜怒哀楽の振れ幅が大きくなるといった症状が現れることもあります。
リハビリを行う際には、本人が不適正な行動をとった場合、周囲の人は怒らずはっきりと指摘し、家族やスタッフはその場から離れたり、反対に本人に訓練室の外に出てもらったりすることを繰り返します。
強く叱られたり、本人の許容範囲を超えた課題を与えられて強いストレスを感じてしまうことで攻撃性が現れることもあるため、周囲が冷静に対応を行うことが重要です。
本人の感情がコントロールできないときは、一度深呼吸を勧めたり距離を取ってみるなど、落ち着かせてから物事を進めることを心がけましょう。

目次に戻る ▲

欲求コントロールの低下

食欲、物欲、ギャンブルなどの欲求に対する抑制がなくなることがあり、社会的行動障害の一つです。
この場合、食べ物やアクセサリーなどの物品を無制限に求めてしまったり、ギャンブルで手元にあるお金を全て使い切ってしまったりするなど、我慢ができず、その衝動が抑えられないといった症状が現れることがあります。
高次脳機能障害により、感情や行動のコントロールが難しくなってしまったことで、うつ状態に陥るケースもありますので、行動を起こす前に、自身の対応内容を見つめる習慣をつけたり、原因となる刺激が判明している場合には、その刺激を避けるよう心掛けることで、徐々に症状は落ち着いていきます。
リハビリを行う際は、家族や周囲の人々は、本人が出来ないことに目を向けて叱責するのではなく、出来たことに目を向けて、褒めたり励ましたりを繰り返すことが大切です。

目次に戻る ▲

人格機能の低下:子どものようになる

人格機能の低下とは、社会的行動障害(特に対人関係や行動面においての問題)の一つで、父親が子どもと本気でお菓子の取り合いをしたり、妻の行くところにどこへでもついて行こうとしたりするなど、年齢相応の行動が取れず、社会に溶け込めなくなってしまうことをいいます。
自身の立ち振る舞い方に全く気付いていない場合もありますが、中には本人が社会的にはおかしいと自覚している場合もあり、外では年齢相応に振る舞いながら、家庭でのみ子どものような行動をすることがあります。
人格機能の低下がみられる場合には、まずは本人に自覚させることから始め、社会的な対人関係のルールを学んでもらうことが肝要です。
特に、家族関係ではどうしても依存しやすい傾向にあるため、同じような障害を持った仲間との交流をしたり、本人が自分でできることを客観的に見守る姿勢が大切です。
なお、人格機能の低下に伴い、羞恥心が欠如することや、我慢ができなくなることもあります(脱抑制)。

目次に戻る ▲

意欲がなくなる

意欲の低下とは、自発的な活動が乏しくなったり、何事にも無関心になったりする症状のことをいい、社会的行動障害(特に対人関係や行動面においての問題)の一つです。
意欲の低下が起こると、1日中ボーッとして過ごすことが多くなり、指示されないと日常的な生活動作すら起こそうとしなくなることがあります。
交通事故で損傷を負った場合に、事故前よりもぼんやりとすることが多くなったり、明らかに自分から行動する意欲が低下したりした場合には、高次脳機能障害の症状である可能性が考えられます。
始めは、周囲の人々による声掛けのサポートが必要ですが、毎日の行動(起床後、歯磨き、洗顔、着替え、食事など)が習慣化していくことで、次第に本人が自分で行動を起こしやすくなってきます。

目次に戻る ▲

物事に関心がなくなる

人や趣味に無関心になり、自発的な行動が乏しくなることがあります。
社会的行動障害(特に対人関係や行動面においての問題)の一つで、相手の気持ちを察することができなくなるので、他人から「空気が読めない」と思われるようになったり、事故前まで続けていた趣味をしなくなったりして、指示がないと一日中ごろごろして無為に過ごす場合には、高次脳機能障害の症状である可能性が考えられます。
対人関係で話がそれたり、不適切な話題が多かったりする場合には、周囲の人々が「今何の話をしていたのか」など、注意を戻すことで、気付きが生まれます。
また、趣味に無関心になるような場合には、きっかけさえあれば活動することができるという特徴もありますので、本人が活動できたことに目を向け、褒める回数を増やすことが大切です。

目次に戻る ▲


地誌的見当識障害

地誌的失見当識

今自分がどこにいるかわからなくなったり、どこに進めばいいのかわからなくなったりして道に迷う症状のことを地誌的失見当識(地誌的見当識障害)といいます。
これは、道順が記憶できない記憶障害、目印が見えても脳が認識できない視覚認知障害、目印を見落としてしまう注意障害などが複合的に絡み合って生じると考えられています。
また、地誌的失見当識の特徴として、次の症状が現れることもあります。

  • 街並失認
    自宅周辺など見慣れた場所であるにも関わらず、どこなのかわからないという状態になることをいいます。道順は分かり、周囲にある建物の存在なども認識できていますが、どれが目印になるのかが分からないために迷ってしまうのです。
    中にはある場所について、地図や見取り図を描いて説明できる人もいますが、実際にその場に行ってみると迷ってしまいます。 見慣れた風景であるにも関わらず、初めて訪れた場所のような感覚を覚えることもあります。
  • 道順の障害
    道順の障害は、街並失認とは逆に、自分がどこにいるのか、どれが目印なのかは認識することができます。
    しかし、その目印と目的地との位置関係が分からない、いわゆる方向音痴の状態になるため、道に迷ってしまうのです。

この他にも、失見当識の症状の1つとして、季節感がなくなることもあります。
これらの症状は、本人の自覚がなく現れてしまうため、いきなり1人で外出すると、自身が道に迷っているということすらわからなくなってしまい、大変危険です。
家族や周囲の人々と共に外出を繰り返すことで、目印や道順などを再学習すると徐々に1人でも外出ができるようになってきます。
万が一の時に備え、スマートフォンの活用や人に道を聞くことができるように、訓練をしておくことも大切です。

目次に戻る ▲


視空間認知能力

半側空間無視:左側が見えない

半側空間無視とは、右側の大脳損傷を受けたために、損傷した脳の部位と反対側の空間(左側)が認識できなくなる症状のことをいい、視空間認知能力の障害の一つです。
まれに、左側に損傷を受け右側が認識できなくなるという右半側空間無視があらわれる場合もありますが、右半側空間無視の多くは一過性で改善します。
右頭頂葉の頭頂-後頭-側頭葉接合部である下頭頂小葉への損傷が主な要因と考えられていますが、前頭葉の背外側部、後頭葉の内側面と海馬傍回、視床枕、内包後脚への損傷によっても引き起こされるとも考えられています。
この症状は、視覚的に見えていないのではなく、認識できない状態にある点が特徴的で、食事の際に自分より左側にある食べ物を残す、歩いているとだんだん右側に寄っていくなどの行動に表れます。左側が認識できないため、障害物の存在に気付かずぶつかってしまうこともあります。
また、重症の場合はまっすぐ前を向くことができず、左半側空間無視であれば顔だけが右側を向いている状態になることもあります。この場合、左側から声をかけても反応しないことがあり、誘導して顔を向けさせても、すぐにあらぬ方向を向いてしまいます。
日常生活に潜む危険を防ぐためにも、まずは本人が症状を自覚することがポイントです。
半側空間無視があっても、適切なリハビリテーションを行い、自身の症状を正しく把握し生活環境を整えることで、病院に限らずとも日常生活を送れるようになります。
ただし、自転車や自動車の運転は、自身だけでなく第三者も交えた大きな危険をはらんでいますので禁止せざるを得ず、生活範囲の拡大には特に注意が必要です。

目次に戻る ▲


言語障害

失語症

失語症とは、脳の損傷により言語機能に障害が生じた状態のことをいい、言語障害の一つで、声声そのものが出ない失声症とは異なります。
加齢によっても日常使わない言葉が出てこなくなることがありますが、失語症では日常使う当たり前の言葉が出てこなくなり、主に言葉が上手く出ずつっかえつっかえ話す非流暢性や、言語は明瞭であっても内容は意味不明で言い間違いが多い流暢性に大別されます。
失語症にはいくつかのタイプがあり、症状が若干異なります。

  • 喚語困難
    頭にイメージがあってもそれに対する言葉が思い出せず、言語を喚起するのが困難な状態という意味です。
  • 失構音
    言葉の発音が乱れることで、アナルトリーともいわれます。
    例えば「音楽」が「おん、がー、く」や「お、んがー、っく」のように発音に歪みが生じ、間違い方も一定ではありません。
  • 音韻性錯誤
    発音の障害の一つで、音の入れ替えにより言い間違いが起こることです。
    発音そのものがたどたどしいアナルトリーと異なり、音自体は正しく発生されますが、言葉を発する段階で変化が生じ、意味の通じない言葉になります。
    例えば、「電話」が「えんわ」や「テレビ」が「てびれ」、「メガネ」が「てがね」といった具合変化します。
    これに、「リンゴ」を「トイレ」のように全く別の言葉と勘違いする誤性錯語が加わり、さらに変化が加わると新造語となります。これらの錯誤が連続すると、ジャルゴンと呼ばれる状態になり、聞いていても全く意味がわからなくなります。
  • ワーキングメモリーの障害
    話の内容が理解できず、何度も聞き返すといった症状があります。
  • 語音弁別障害
    言葉がうまく聞き取れない症状のことを指します。言葉の内容が理解できない理解障害が複合して現れることもあります。

上記のような、聞く、話すといった症状だけでなく、読み書きに関しても困難になり、言語コミュニケーション全般において問題が生じることもあります。
失語症は、「話す」「聞く」というトレーニングを繰り返すことで、症状の進行を遅らせることがわかっています。周囲の人は、本人が言おうとしていることを待つ姿勢が大切で、言葉が詰まった際にはヒントを出してあげるなど、適宜サポートを行いましょう。
また、「書く」こともトレーニングの一つになりますので、時折筆談を交えてみるのも効果的です。
常に寄り添う姿勢を忘れず、本人のペースを尊重しながらコミュニケーションをとることを心がけましょう。

目次に戻る ▲

易疲労性

易疲労性とは、注意力や集中力が低下することで「脳が疲れやすくなる」ことを指します。
脳は、多くの情報を同時に素早く処理できる複雑な器官です。また、脳の損傷(外傷)により、これまで学習により築き上げてきた神経回路が寸断された場合でも、それを補って元の能力を維持しようとします。
健常者であれば10の力で処理してきた仕事を、例えば5や6の力で同じ仕事量をこなそうとするのです。そのため脳がフル稼働しなければならず、結果として脳が疲れやすくなるといわれています。
一定時間、注意力や集中力を保つことができない持続的注意の障害は、周囲からは飽きっぽいと思われることもしばしばです。また、本人は自分が疲れていることに気付かないことが多いというのも特徴的です。居眠りをしたり、急にぼんやりしたりする症状などがそのサインですので、周囲がそれに気付いてこまめに休息を取らせるという対応が大切でしょう。

目次に戻る ▲

このように、高次脳機能障害と診断された後は、様々な症状があらわれるため、交通事故以前とは大きく生活が異なることがほとんどです。交通事故被害者である本人はもとより、家族や周囲の人々も、最初は戸惑われることでしょう。 家族が高次脳機能障害と診断されたとき、私たちに何ができるのか確認したうえで、社会全体でサポートしていけるような仕組みづくりを進めていきたいですね。

交通事故の無料法律相談ご希望される方はこちら

交通事故無料法律相談

小山好文弁護士
無料相談はこちら LINE